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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)12581号 判決 1972年3月29日

被告 向島信用組合

理由

一  本件土地(別紙物件目録記載の土地)につき、これを共同担保とし債権者原告債務者訴外会社(東京硝子株式会社)、債権極度額九〇〇万円の昭和四〇年八月一五日付根抵当権設定契約に基く同年一〇月二〇日受付の根抵当権設定登記がなされていたところ、昭和四二年三月一五日被告が右被担保債権の確定債権額九〇〇万円を訴外会社に代位して原告に弁済したことを原因として、昭和四二年四月二〇日、右根抵当権を原告から被告へ移転する付記登記がなされたことおよび被告が実際には右九〇〇万円の代位弁済をしていなかつたことは、当事者間に争いがない。

二、ところで《証拠》を総合すると、訴外会社は原告振出の約束手形を訴外会社の取引銀行である被告信用組合等で割引を受ける方法によつて原告から融資を受けていたので、原告と訴外会社との間でこれによる原告の債権を担保するため前記根抵当権設定契約を締結し、これに基づいてその設定登記をしたこと、その後訴外会社が不渡手形を出して経営困難となつたため、訴外会社と被告と協議の結果、訴外会社が原告に右根抵当権設定登記の抹消をしてもらつたうえ本件土地を被告に提供することとなり、昭和四二年三月頃訴外会社から原告に右根抵当権設定登記の抹消をくりかえし懇願し、結局原告がこれを承諾してその抹消登記申請手続のための委任状(甲第一号証の二、ただし委任事項欄が根抵当の移転の登記に訂正されたのは、次に認定するとおり後になされたものである)を訴外会社に交付したこと、ところが被告が訴外会社から右委任状の交付を受け、さらにこれを司法書士に交付して右抹消登記申請手続を依頼したところ、右司法書士が誤解して被告が原告に確定債権額九〇〇万円を代位弁済したことを原因とする根抵当権移転の付記登記の申請手続をしたため、前記のとおりその趣旨の付記登記がなされてしまつたことが認められる。右認定を左右するに足る証拠はない。

三  そうすると原告は、根抵当権設定登記の抹消を承諾したことによつて、訴外会社との間の根抵当権設定契約を合意解除し、もはや根抵当権を有しなくなつたものというべきである。そしてたまたま司法書士の誤解によつて、右登記の抹消がなされず、被告が原告に確定債権額九〇〇万円を代位弁済したという真実に反する事実を原因として根抵当権移転の付記登記がなされたからといつて、原告が被告に対し右九〇〇万円の支払を請求する権利を取得するいわれはない、また被告が本件土地の競売事件の配当手続において、右の誤つた付記登記により自己に移転したとされた根抵当権の被担保債権について債権の届出をしたとしても、原告はすでに根抵当権を有しないのであるから、これによつて原告の権利を侵害したといえないことも当然である。

五  よつて、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はすべて理由がないからこれを棄却する

(裁判官 小林信次)

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